総務省の調査によると2020、2021年と非正規雇用で働く人の割合は2年連続で減少している。これは人々の安定を求める傾向に加え希望すれば正社員になりやすい世の中になったためと言えるかもしれない。
だが実際に長年非正規として働いてきた身からすると、昨今は雇用形態に拘らない生き方を選択する人が増えている印象を受ける。それは就職難に起因するものではなく、正社員という立場に希望を感じない人が増えていることが理由であるように僕は感じている。
そんな世の中において今なお世間から否定的な目で見られがちなフリーター。特に年齢が上がれば上がるほどその傾向が強まっていくことは説明不要だろう。
しかし非正規雇用のなかでもアルバイトという雇用形態を選択し続ける人々はなぜここまでネガティブに見られるのだろうか。
フリーターの何が悪いのか。
現役のフリーター、そしてフリーターという生き方に興味を抱いている人々に向けて30代でのフリーター経験者が気ままに語る。
※なおWEBの辞書によるとフリーターとは若年の非正規雇用者のことを指す言葉である。だが一般的にはパートやアルバイトとして生活している人々をフリーターと呼ぶことがほとんどだろう。したがってこの記事でも「フリーター=学生や既婚者を除いたアルバイトやパートで生計を立てている人」とする。
意外と暮らせてしまうフリーター

僕は契約社員→正社員→個人事業主→フリーターという経緯を辿ってきた。もともとフリーターという働き方に対し抵抗はなかったのだが、実際になってみると予想外の事実が判明した。フリーターでも意外と暮らせてしまうのである。
むしろ正社員や契約社員だった頃より収入が増加しストレスが減ったことでQOLが爆上がりしたのには嬉しい驚きがあった。
これについては僕の能力やメンタリティ的な問題でそれまでろくな会社に就職できなかったことも大きな要因なのは言うまでもない。
が、とにかくフリーターが想像していたよりも暮らしやすいというのは事実だ。
最低賃金増が追い風に
これは偏に最低賃金増加の影響によるものだと考えられる。
例えば都内の最低時給はここ10年間(2023年現在)で約200円も増加している。つまり1日8時間、月20日働くとしたら200円×8時間×20日=3万円以上も収入が増えているのだ。
無論もっと勤務時間を増やすなり好待遇のバイト先を探すなりすればさらに収入が増えることになる。
特に首都圏であれば時給1200円以上のバイトも珍しくなく、1日8時間、月22日勤務した場合、額面では1200円×8時間×22日=21万円を超えてくる。時給1000円代で好待遇と言われていた10年前と比較するとその差は一目瞭然。同じ条件で勤務した場合、なんと約4万円も月給が増えているのだ。
贅沢はできずとも気ままな一人暮らしをする分にはまったく困らないのである。
同じくらいの待遇の仕事なら楽に見つかる
また非正規雇用の問題として度々指摘される「いつクビになるかわからない」という点についてもフリーターとして働いている層にとってはあまり気にならない。
正直同じような待遇の仕事ならいくらでも見つかるからだ。
これは、
・そもそもの生活水準が低いので高望みしない
・バイトに頼る企業が増えているため採用されやすい
ということが主な理由である。
またフリーターとして生きている人々は業種に拘りがない場合が多いため、なおさら雇用の不安に怯えることが少ない印象を受ける。
あえてフリーターを選択する人が増加

「雇用形態に拘らない働き方をする人が増えた印象を受けている」と冒頭で述べたが、それはあながち間違いではなかったようだ。
総務省統計局によると「仕事がない」「学費や生活のため」という理由で非正規雇用を選ぶ人は減少傾向にある一方で「自分の都合の良い時間に働きたい」と答えた人は増加している(参考:https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/index1.pdf)。
もちろん就職先が見つからず仕方なく非正規雇用で働かざるを得ない人も大勢いるはずだが、割合としては好き好んでフリーター生活を送っている層が増えているのである。
ここからはあくまで僕の体感によるものだが、そうした人々があえてフリーターという生き方を選択している主な理由は下記の3つではないかと思う。
正社員の待遇が割に合わないと感じている
好きでフリーターをしている層のなかには「正社員の待遇が割に合わない」と考えている人が多い。そういった人々は例え正社員として働けるチャンスが訪れたとしても余程惹かれるものがない限りあっさり断ってしまう。
責任と苦労を伴って年収が200万円上がることよりもストレスフリーで月20万円程度の収入で暮らす方が好ましいと感じるのである。無論、責任と苦労を伴って時給換算でバイトを下回るような待遇の会社はなおさらNGなのだ。
また自分や身近な人が正社員として働いていたにも関わらず会社の倒産やリストラ、あるいは心身の不調での退職などを経験している場合は「正規雇用は安定」という前提を疑ってかかっているケースも多い。
自由に惹かれる
フリーターとして働いている人々は自由を愛している。
好きなペースで働けて具合が悪ければ躊躇なく休める。嫌ならすぐに辞められる。人付き合いも最低限で良い。責任も少なく、オール明けのボンヤリした頭で働いてもなんら問題がない。
金銭や社会的地位の問題を除けば、フリーターはとにかく自由なのだ。
夢や明確な目標を追っている人ばかりではなく、キャリアよりも自分のペースを重視したい人にとってはうってつけの働き方なのである。
しがらみがない人も増えている
昨今は人間関係が希薄になっていると言われている。長年フリーターとして生活してみるとそれを実感することができる。
フリーターとしてベテランになっている人々はまったくと言っていいほど人間関係のしがらみがない場合が多いのである。両親や兄弟との縁が切れていたり、離婚していたりと事実上の天涯孤独のような人が珍しくない。
その傾向は年齢が上がれば上がるほど顕著で、自分1人が生きることのみを考えるともう正社員に拘る必要がないのである。特に所謂高齢フリーターの場合、それまでの人生においてある程度正社員として働いてきた経歴があるため貯蓄に問題がないというケースも少なくない。
フリーターの何が悪いのか?

自分1人が生きればいいと考えるならばフリーターという働き方も一見問題がないように感じる。フリーターの何が悪いのだろうか?逆にそう問いかけたくなるほどだ。
しかしフリーターという生き方には主に下記のような問題が生じる。
フリーターの何が悪いのか。3つの問題点をそれぞれ見ていこう。
生涯年収の差
フリーターの問題点1つ目は正規雇用との生涯年収の差だ。
若い頃ならフリーターの方が正社員に対し年収で勝っているケースがあり得る。だが余程ケチな企業でない限り、生涯年収は正規雇用の方が大きく上回ることになるはずだ。
それには正社員のメリットであるボーナスや各種手当、そして退職金の存在が大きい。
正社員の平均生涯年収はだいたい2億円くらいと言われている。
一方でフリーターの生涯年収はいくらであろうか?フリーターは基本的にもらえる賃金の変動がほとんどないはずなので計算も容易いだろう。
例えば時給1200円で1日8時間、月22日働いた場合の年収は額面で約253万円。
このまま変動がない前提で計算すると、仮に40年間フリーターをした場合の生涯年収は額面で約1億円となる。当然ここから税金が引かれるので実際の手取りは7~8000万円程度。
さらにこの手取りから40年分の家賃や食費などの生活費が引かれる。
かなり雑に計算してみると、
家賃6万×40年間=約3000万円
食費+日用品月3万×40年間=約1500万円
光熱費月1万円×40年間=約500万円
携帯代月6000円×40年間=約300万円
etc.
こうして見るとかなり危機感が出てくるかもしれない。
年金
年収が少ないということは必然的に納める税金も少なくなる。なんとなく得した気分になるが、問題は将来もらえる年金の額だ。
今では基準を満たしている場合はフリーターでも社会保険への加入が義務付けられている。そしてそのなかの厚生年金は加入年数と納めた金額によって将来もらえる金額が変わる。
つまり年収が多ければ多いほど将来受給できる年金額が増えるのだ。
その点を踏まえると、ただでさえ少ないと言われている年金が年収の低いフリーターの場合はさらに減ってしまうことになるのである。
老後は高確率で積みやすい
フリーターの1番の問題は老後にある。
現在は正規雇用であっても老後資金を如何に確保するのかということに誰もが頭を悩ませている。
上述の「生涯年収」「年金」という2つの問題を考えると、フリーターにおいての老後資金問題はさらに窮地に立たされることは考えるまでもないだろう。
おまけに実はもう1つ大変な問題がある。それは住む場所について。
最近ニュースでも取り上げられているが、高齢になると賃貸住宅に入居するのが困難になる。不慮の事態により家賃を回収できなかったり、後始末をする羽目になったりする可能性があるため、貸す側が嫌がるからだ。
そうなると老後はマイホーム住まいの方がなにかと安心になるわけだが、先程の計算によるとその資金の捻出にはかなり苦労しそうだ。しかもフリーターはローンでの契約がしづらいというデメリットもある。
仮に親や親戚などから将来的に住宅を譲ってもらうことができたとしても、そこには修繕費や固定資産税といった出費がかさむ。
いずれにせよ現役時代の収入が少ないということは生涯に渡って尾を引くのである。
フリーターの何が悪い?まとめ
若い頃は「フリーターの何が悪いの?」なんて考えが頭を過ぎりがちだ。
もちろんどんな選択をしようとも本人の自由だが、貯蓄も将来のアテもないのに生涯フリーターを選択すると詰みやすいということだけは覚えておこう。
現役のフリーターや将来バイトで暮らしていきたいと考えている人は、悪いことは言わないから老後のアテだけはきちんと確保しておくことをおすすめする。